Asahi's notebook

大麦小豆二升五銭

西洋剣の手の内

 こちらに来てから、せっかくなので西洋の古い武術がどのようなものか知りたいと思い、手始めに練習用の剣を購入してみた。片手持ちのごくありふれた、ゲームやマンガで目にするような「西洋の剣」である(通称:はがねのつるぎ)。樹脂製のもので多少刃は分厚いが、重さと長さ、重心のバランスはなかなかよくできている。

 私は剣術の経験といえば、日本のものかシステマで何度か練習したシャシュカ(ロシアのサーベル)くらいしかない。中国武術にも両刃で反りのない剣もあるようだが、私は一切扱ったことがないので、本当にこれがほぼ初めての経験である。
 ほぼ、と言ったのは、夏に旅行をしていた間に幾度か、ヨーロッパの伝統的な剣を使う剣術(英語ではhistorical fencingという)の教室に参加させてもらったからである。合わせてせいぜい5回ほどだが、その中でもとても重要なことがわかった。

 そもそも剣を持つ手の内が違うのだ。日本の剣術ではいわゆる「切り手」と呼ばれる形になり、両手持ちであることと合わさって、歩く方向と刃筋が原則的には一致するわけだが、こちらの剣の持ち方はそうではない。基本的には食事のときのナイフと同じ持ち方であり、前腕に対して少し角度が付くことになる。

イメージ 1
(この手つきをよく見ていただきたい)

 日本刀に慣れている身としては少し戸惑うのだが、形状の違いを考えると納得もいく。
 まず、まっすぐな両刃の剣なので、刃と峰の区別はない。日本刀の持ち方では、自分の方に向いている側の刃は使いづらい。
 また、鍔の形とも関係がある。日本刀では丸い鍔が刀の周囲をぐるりと囲んでいるので、柄を持っている手の指が刀身に触れることはふつうない。だが「はがねのつるぎ」の鍔は、刀身の平面と垂直に交差する方向には広がっていない。平たく言えば、平たいのである。
 そのため、剣の「ひら」に親指を添えて、平らな面で相手の斬撃を受けるという使い方がある。

 このように日本刀と西洋の剣では持ち手の指の形などに違いがあるようだ。そして、手や指の形の違いというものは、胸や背中、腰のポジションなどにも多大な影響を与え、体全体のさばき方や力の流れとも切り離しては語れないのである。