Asahi's notebook

大麦小豆二升五銭

水滴とグラス

 少し前に帰国してからというもの、よくイギリスにいる夢を見る。

 

 私は両親と一緒に屋外のテラス席に座っている。それも街中のよくあるパブではなくて、もっと大きな、何か複合施設に併設されたレストランといった規模の空間だ。盛況で、周囲の席は休日を楽しむ人で埋まっている。白で統一された椅子とテーブル。テーブルの方は透かし模様が入っていたような気がする。そういえば、この風景はいつか行ったロンドンあたりの大きな公園と似ているようでもある。

 少し会話をしてから、私は飲み物を注文しに店へ入る。薄暗く、少し湿り気を帯びたいかにもなパブの空気を吸い込みながら、人の群れに交じってバーに並ぶ。カウンターの内側には四人か五人くらいのスタッフが動き回っていたから、やはり大きめの店であったのには違いない。こういった大人数を相手にする、賑やかさが売りのパブではよくあることだが、ビールの種類は少なく、さほどおもしろい銘柄は並んでいない。私は適当に、二種類あったゴールデンエールを一杯ずつ注文したらしい――その場面は、なぜか記憶から抜けている。

 小柄な店員が私にクレジットカードを返しながら誕生日のサービスだと言ってコーラ割の何かを渡してくれた。まあ、コークハイだろうか。ならばここはイングランドに間違いあるまい。スコットランドで、良質なシングルモルトをコーラ割になどしようものなら、警察にしょっ引かれても文句は言えない。それにしても、誕生日とは思いもしなかったが、どうしてわかったのだろうか、と疑問が浮かんだところで、クレジットカードに印刷されていたのだと思い至って納得がいった。いや、もちろん、現実のビザカードに誕生日は表示されていない。

 しばらくして、ビールの入ったグラスを二つ、受け取った。大きなグラスだが、どちらも半分くらいしか中身がない。はて、一パイントとはこのぐらいの量だったろうか。私は普通のビールの量がうまく思い出せないまま、三つのグラスを手にしばし悩んだ。悩んだ末、もう一度バーへ取って返すと、カウンターの内側にいた丸顔で可愛らしい感じの黒人女性に尋ねた。「これってパイントで合ってます?」「違いますよ」と当然のように店員。やっぱりか、と改めて注文しなおしたところで、夢は途切れた。

 初夏のゴールデンエールは、飲めていない。