Asahi's notebook

大麦小豆二升五銭

自転車に乗った旅人のこと

友人Vの祖国は確かフランスであったように記憶している。確か、というのは、彼との縁はエディンバラの下宿が同じだったことで、ときおり交わすやりとりはもっぱら英語だったので、そういう曖昧な記憶になるのである。ちなみにフランス語の方はというと、大学…

実際にやってみることに勝る練習はない

実際にやってみることに勝る練習はない、とますます感じるようになってきた。 週刊連載のマンガなどを読んでいて、2巻3巻と話数を重ねるごとに、絵柄が安定して上手になっていくのに覚えはないだろうか。私は昔、それをぼんやりと不思議に思った覚えがある。…

水滴とグラス

少し前に帰国してからというもの、よくイギリスにいる夢を見る。 私は両親と一緒に屋外のテラス席に座っている。それも街中のよくあるパブではなくて、もっと大きな、何か複合施設に併設されたレストランといった規模の空間だ。盛況で、周囲の席は休日を楽し…

夏の足音

22℃、なのだそうだ。私の携帯に表示された、明日の予想気温である。 スコットランドで20度を超えるとなれば、これはもう夏である。数日前からなかなか日差しもあり、暖かい日も増えてきた。日本のように一度暑くなったらそのまま、というわけではなく、比較…

ここにある

整体の本、とくに体癖論を扱っている書籍で「上下型2種」の記述を読むと、たいていは決まり文句のように「ストレスで胃潰瘍を起こす」などと書かれている。この整体は巷では野口整体などと呼ばれているもので、体癖はその臨床経験と、おそらくは東洋の伝統医…

社会の距離って何だ?

ソーシャルディスタンスという語が、日本でも耳に入るのではないだろうか。この英語の意味は、聞いただけでは掴みづらいことかと思う。取り立てて特別な含みはなく、最近盛んに言われている、人と人との距離を保ちましょう、というだけのことなのだが、うか…

アボカドをつまみにする話

アボカドの話をしよう。 最近はほとんど買い物のたびにアボカドを手に取っている気がする。数週間前にイギリス全土で始まったquarantine(外出制限)の影響で、飲食店は軒並み休業になってしまった。開いているのは食料品店、医療品店、こちらではコンビニの…

僕は勉強で苦労しなかった

今頃になって、かつて周囲にもいたはずの「勉強ができないひと」のことに、思いを致している。なぜかといえば、外国語で、異文化の世界観を前提にした哲学など学んでいるものだから、母国語でかつ生まれ育った文化の思考法としてそれを学んでいる人たちとは…

文体雑感

ここしばらくのところ、言葉のリズムが気にかかっている。いま普段使いにもちいている日本語の書き方は、どうももともとの日本語のリズムではないような感じがして、そのくせ、ではどういう流れが心地よいのかと言われれば、これと言えるほどの感覚も持ち合…

ここにもあそこにも

どうということもない会話の断片が、妙に心に残っていることがある。何を記憶に残しておくのか選べたのなら、もっとほかに覚えておくべき会話もあったのかもしれないけれど、別段意味もない断片の寄せ集めである。 以前ヨークのホテルで働いていたときの同僚…

英国の年の瀬

12月24日。近所のショッピングセンターは家族連れで賑わい、まさに大晦日の様相だった。大きなスーパーが二軒と家電、雑貨、本屋、コーヒーの店などなどが並んでいて普段から人は多いけれど、この日はあれこれとおしゃべりをしながら大きな荷物を抱えた家族…

先週の稽古

フェンシングの先生とかなり時間を掛けて自由攻防稽古をする機会があった。そのとき感じたことがらが多少言葉になりそうなので、書いておこうと思う。 まず武器に慣れているかどうかはとても重要であるということ。判りきったことを言っているようだが、実際…

云年振りの型

最近はときどき抜刀の稽古をしている。ずっと前に教わったきり、何を目標に稽古したものかわからずに放ったままになっていた正座の型だ。 素手の組み技であれば、相手に影響を与えようという意思の表れが動きの妨げとなることは実感しやすい。また、先日はバ…

雲と風の日々

携帯電話にキャリアからのメッセージが届いた。前回トップアップしてからもう一月経つらしい。先週同じお知らせ(来週で期限がきますよ)を受けたときにはまだ数日あるなと思っていたのだが、その数日はもうどこかへ行ってしまったらしい。もう少しゆっくり…

見えるものがすべてではない

結構長く日本に帰っていた。久々の日本ではすしやラーメン、あんみつといった日本食文化の恵みをむさぼったが、数ヵ月越しにスコットランドへ戻れば、今度はこちらのケーキや揚げ物などにフラフラと引き寄せられる。斯様に人心は無常を移ろい、欲とは限りの…

移転しました

ヤフーブログのサービス終了に伴いこちらのはてなブログに移転しました。 まあ移転作業をやったのは少し前なのですが、一応区切りが分かるように書いておきます。過去記事の内容は変わっていません。カテゴリーを若干弄った程度です。 もともと更新頻度は低…

「お前にはユーモアのセンスがない」

イギリス人にとって最大の罵倒は「お前にはユーモアのセンスがない」なのだという。以前2,3名のイングランド人から教えてもらった話だが、これが国民の共通認識なのか、それとも誰かの本にでも登場する有名な文句なのかは判然としない。 どちらにしても、そ…

身の規矩と…

ヨーロッパの剣術教本によく登場する図がある。 これは1400年代イタリア北部のフェンシング・マスターによって書かれた本に載っているものだが、見てのとおり人間の体に対する基本的な太刀筋を図示したものだ。 はじめてこちらの練習用の剣を手にしたときは…

緑色と滋味

Baby sproutという野菜がある。日本語では芽キャベツというのだろうか。ミニトマトくらいのサイズの、小さなキャベツである。味もキャベツに近いが独特の香りがある。 イギリスではごく一般的な野菜で、とくにクリスマスには定番の食材である。イギリス人た…

空白の大きさは

言葉には表面と裏面がある。表面はその意味によって示されること。共有されるもの。公(おおやけ)としての言葉。言葉は重ねることによってそれを指し示す。積み重なれば隙間が生まれ、そこに「ある」ものによって「ない」ことがあぶり出される。これが言葉…

備忘録

何日か前(いや、2週間ぐらい前だったかもしれないが)、大好きな小説家の坂口氏がツイッターでしていた発言が目に留まった。細かいところは忘れたが、おおよそ以下のようなもの。 「日本の自殺者は今のペースで減っていけば、10年後には0になる計算だ。おれ…

屋台と冷気と暮れの賑わい

駅前ではクリスマスマーケットが、確か11月の半ばから始まっている。冬になりすぐに日が暮れるので私の気分は消極的になりがちだが、この屋台と人々の独特の活気は、暗くて冷たい冬の空の下だからこそ映える気もする。 白い息を吐きながら、定番の温めたワイ…

月曜の夜は

スコットランド北部、ハイランドにはかつて戦士たちがいたといいます。有名な民族楽器のバグパイプを演奏している、キルトを身に着けたひげ面のおじさん・・・というのは、典型的な「ハイランダー」のイメージでしょう(もっとも、イメージと史実の違いには…

住まい探し顛末

先日、エディンバラで早くも引越しを経験した。この街に腰を落ち着けてみようと決めてほんの3ヶ月と少しである。理由は簡単なことで、大家のわがままと言うほかはない。まあそれなりに起こりうることではあるらしく、「ハズレ」を引くとこういう目に遭うこ…

フェスティバル始まる

夜、自室にいると街の方から破裂音が聞こえてきた。花火だ。 窓から数百メートル先の城の方に目を向けると、夜空に鮮やかに燃える華が見えた。 スコットランドの首都、エディンバラのフリンジFringe、2018。8月3日から月末までまるまる続く、古都の盛大な祭…

家探し

現在某古都にて、住む家を探している。 どうやらイギリスでは日本のワンルームマンションのようなものはそう多くなく、留学していたときに経験したようなフラット形式が一般的なようだ。あのときの学生寮では比較的スペースに余裕のあるキッチンが付いたリビ…

4月12日

カプチーノがうまい。 エディンバラの墓地では桜が少しだけ咲いていた。青空は見えない。雨だったのだがそのときは止んでいた。 日本の雨よりはもっと気まぐれが激しい。いっとき強く降り注いだと思えば、すまし顔で元の曇り空に戻ってしまったり、一日中続…

お酒の後は

やっぱりラーメンでしょうか。 私はついつい脂っこいものが欲しくなります。京都にいるときはラーメン屋さんに不自由しなかったのですが、イギリスに深夜営業のラーメン屋はありません(あったら教えてください)。 こちらで遅くまで空いている店といえば、…

指は第二の道具

料理をするときに使う包丁。刃物だから、うまく切るためには適切な方向に動かし、力を加えてやらなければならない。食材と刃の当たる角度が悪ければ、かなり余分に力を入れても切れないこともある。空いた手で背をしっかり押さえればよいときもあれば、押す…

風景を切り取る

旅行に行くと、写真を撮ることがある。撮ることがある、というのは、撮らないときもあるということだ。 風景の中に立つ瞬間が好きだ。風が肌に触れ、視界いっぱいがその場所で、人々のざわめきがあってもなくても、その空気の密度と肌触りが何よりも鮮やかに…