Asahi's notebook

大麦小豆二升五銭

指は第二の道具

 料理をするときに使う包丁。刃物だから、うまく切るためには適切な方向に動かし、力を加えてやらなければならない。食材と刃の当たる角度が悪ければ、かなり余分に力を入れても切れないこともある。空いた手で背をしっかり押さえればよいときもあれば、押すか引くかすることであっさり切れるときもある。
 道具をうまく扱うためには、その形に合った方向に動かしてやる必要がある。調理器具、工具、スポーツ用品や手押し車、または楽器など、道具の形状はいかに手に馴染み、必要な動きを実現しやすいように設計するかという工夫の積み重ねでもある。
 たとえば、大きく振り下ろす道具なら先端を重く。大きくて重くなりがちなものなら、バランスを取りやすいように手元を重く。全体の重さ、長さ、厚さ、取っ手の形や角度。要素は色々とあるだろうが、未知の道具もまずは手に取ってみれば、必要な動作がなんとなくわかることもある。
 このとき、もうひとつの重要な要素が私たちの手だ。手をどのような形でフィットさせるかで扱いやすさは大きく変わる。
 道具は延長された体の末端のようなもので、それぞれの形によって動かせる方向、動かせない方向が決まる。それは手の動きを規定し、そこから順々に手首、肘、肩などが無理なく動ける範囲が決まってくる。
 手に持った道具でどのような作業をするかがわかり、それに必要な腕の動きが決まれば、それに合う姿勢もおのずとわかってくる。求めている作業に合わない姿勢では疲れるし、無理をしても効率はそれほど上がらない。
 このように末端の動きが決まると全身に影響を与えるが、もしも手に何も持っていなければ、私たちの体の末端にあるのは指だ。指を動かせば手のひらの角度や形が変わるが、それに合わせて手首や肘の角度まで微調整をしてみると、手の形によって姿勢にもある程度の影響があることがわかる。
 指は末端から全身の動きのガイドラインにもなりうる、一番身近な道具のようにも思えてくる。