Asahi's notebook

大麦小豆二升五銭

身の規矩と…

 ヨーロッパの剣術教本によく登場する図がある。

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 これは1400年代イタリア北部のフェンシング・マスターによって書かれた本に載っているものだが、見てのとおり人間の体に対する基本的な太刀筋を図示したものだ。
 はじめてこちらの練習用の剣を手にしたときは戸惑った。不慣れな道具だから当然だが、それでもアジアのものならもう少し手に馴染むだろうと思う。まず剣を持つ手の形が違うので、なんとなく振ってみてもしっくりこないのである。

 日本刀の場合、両手で体の真ん中に構えてみると、一番楽な動きは上下だろう。難しいことを考えなくても、両手をそのまま上下させてやれば、相手の頭頂部から真下に向かって切り下ろす太刀筋になる。
 この軌道はまず自分の体の中心線をなぞることが第一で、それを相手に合わせていくといった感覚になる。
 慣れない両刃の剣を、慣れない片手で持ってみても、どの線をなぞって振ればスムーズな動きにになるのか、いまひとつピンとこない。図にある向かって右、つまり相手の左肩から袈裟懸けに切る軌道に納得がいくまでかなり時間がかかった。

 ところが、最近気が付いたことがある。
 当然といえば当然だが、この図にあるのは剣を向ける相手の体であり、そこに目標としての太刀筋が描きこまれている。別段、剣を手にした自分の体に対してどの方向、といった話ではないようだ。
 自分の構え如何に関わらず、ただ相手の体に対して切り込めばそれでよいということだろうか?

 どうやらそうなのかもしれない、と思っている。そしてその違いがそれなりに重要なことのような気がしている。