Asahi's notebook

大麦小豆二升五銭

冬の日を思う

 シェットランドに行く、という話をしたら、いいねえ、あそこは別の国だよ。今が一番良い季節だから、楽しんでおいで!冬のスコットランドはひどいからね……、という返事が返ってきた。ハイランドでのホストファミリーとの会話である。
 そう、スコットランドは緯度が高いので、夏は日が長く、冬はとても暗い。今時分は毎晩11時くらいまで西の空には薄らと茜色の残光が見られるのに対し、冬には午後4時くらいでもすでに暗いそうだ。さらにその最北端の離島であるシェットランドともなれば尚更だろう。
 イギリスの夏は短く、その限られた期間に溜めこんだエネルギーを出し切るかのように美しい。3年前に留学したとき、到着した9月の半ばにはすでに冬の気配すら感じられた。6月になり学期が終わって、日差しと緑、そこら中に飾られている花々の見事さを目にしたときは、この変化は詐欺だなと思わずにはいられなかった。
 だから旅行者には私は夏を勧めるし(8月の後半はもう秋に近いので、信用しないこと!)、留学なら夏休みは堪能してから帰るのがベストだ。
 
 だが同時に、冬こそはこの国の景色がもっとも様になる季節だとも感じている。冬の冷たい風を感じながら人気のない観光地の城から見た大地の様子は、今でも強く印象に残っている。これがこの土地の姿なのだな、と不思議な心地良さとともに何かがすとんと腑に落ちた。
 灰色の空と灰色の海、枯草色の大地に向こうに見える町を、まるでゲームの世界だな、と少し可笑しく思うと同時、そこに独りで立っていることに、それまで感じたことのない納得と安心感がひんやりと胸に広がったのを覚えている。
 Holy islandと呼ばれる、北東イングランドの離島でのことだ。
 
 だからという訳でもないが、私がこの国を好きだというのは、ただ夏の明るさを楽しんだからというのとは少し違う。長くて色味の少ない冬や、この先たぶんすることになる苦労なんかも含めて、やっぱり惹かれずにはいられない何かがあるようなのだ。
 そして何かを好きになるということは、鮮やかな夏だけではなく、冬の暗さと冷たさを見た後でも、むしろますます引き込まれるというような面が、あるように思うのである。
 今は美しい夏の日。けれど灰色の雨降る冬も、この土地ではいつも薄布一枚の隣にある。